「論文」
富山国際大学2003-09


富山県内におけるNPO法人の現況と市民評価

住みたい富山研究所
谷口新一

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§はじめに

特定非営利活動促進法(通称NPO法)が平成10年3月成立し、平成10年12月に施行された。平成15年6月30日現在、日本全国で13,401件が受理され、11,899件が認証されている(※1)。
特定非営利活動法人(以下NPO法人)は、認証により設立される。認証とは、設立要件のすべてを明文化し、その要件に適合していれば、所轄庁は必ず法人の設立を認めなければならないとする制度であり、認証前の2ヶ月間の縦覧期間制度や毎事業年度初めの3か月以内に作成し所轄庁への提出が義務付けられている事業報告書など、公的権力ではなく、市民がNPO法人を評価するという法的フレームになっている。評価には、監視という意味も含まれるが、NPOを自分たちの社会装置として育てていくという積極的意味も含まれていると考える。現状では、法の趣旨の崇高さに市民側がついていっていないというのも現実であるが、市民自身がNPO法人に育てられ、また逆に育てていくという法的フレームは21世紀の市民社会制度として重要な意味を持つことは間違いのないことであろう。 今回、NPO法の理念を実体現すべく、稚拙ながらも拙者が「市民評価」を試みることにする。今回の評価が唯一無二の結果結論を与えるものでは勿論ない。また、今回の評価では未熟な面も多々あるであろう。未熟が故に行わない方がいいのか。私は、この問いには強く否定したい。評価とはコミュニケーションであり、画一的で一元的な評価ではなく、多元的で多様な評価がなされることが豊かな社会であり、NPO法が期待するところでもある。稚拙さや未熟さは十分承知のところであるが、NPO法がうまく機能するための一翼を少しでも担うために、一人の市民として今回の評価を行った。

§NPO法人の現況概略

富山県知事認証NPO法人数は、平成15年7月23日現在で57である(※2)が、今回の評価は、平成15年4月現在で事業報告書が県に提出され公開されている22法人を対象として分析した。
22法人のうち12法人が富山市を所在地にしている。決算時期については、14法人が3月31日としている。

§NPO法人の役員について

理事数は、4法人が法律要件ぎりぎりの3人としている。最高は13人である。報酬を理事に与えている法人は7法人ある。ひまわり会は、理事監事あわせて9名であるが、報酬を受けているものが6名おり、NPO法第2条−1−ロ「役員のうち報酬を受ける者の数が、役員総数の3分の1以下であること」に抵触するとすれば善処が必要である。前年度に継続して理事となっているケースが多い。また、理事を社員と全く重複させていない法人が5法人ある。
監事は、11法人が法律要件ぎりぎりの1人としている。他の11法人は2人である。報酬を監事に与えている法人は2法人である。監事も理事同様、前年度に継続というケースが多い。監事を社員と全く重複させていない法人が9法人あるが、監事の監査などチェックを担う役割を考えると、社員と重複しないことが好ましいと考える。

§NPO法人の財務について

企業会計においては、一般的に損益計算書と貸借対照表が作成されている。公益法人会計においては、収支計算書と正味財産増減計算書と貸借対照表が作成されている。NPO法は、第28条および第29条において、財産目録、貸借対照表及び収支計算書を作成し、所轄庁に提出することになっている。企業会計においても、公益法人会計の収支計算書に相当するキャッシュフロー計算書を作成する企業が増えてきているが、今回の調査では富山県内のNPO法人は、より理念の近い公益法人会計に則った会計をベースに作成しているようだ。
日本公認会計士協会近畿会が2000年12月に大阪府内の98NPO法人を対象にしたレポートによれば、収支計算書の次期繰越収支差額と貸借対照表の資金残高不一致が20%、原価償却の対象となる資産を持つのに償却処理不実施が24%のNPO法人で見られた。NPOの財務については、市民がNPOを判断する重要な指標であるが、上記の例のように多くの課題を抱えていることも現実である。今回、富山県内のNPO法人についてまとめたものが「別表1」である。収支計算書については、市民活動や町内会などの共益活動における会計で慣れ親しんでいるからか、比較的明快に記述されているが、貸借対照表については、理解が十分ではないまま作成されている印象を受ける。NPO法人の力量不足も原因であろうが、税理士や簿記の専門家など、NPOを外部サポートする側のNPO法人会計という公益法人的会計に準ずる新しい会計への理解不足も原因となっているようだ。これは、NPO法人会計の歴史が浅いこととNPO法人は株式会社など一般法人数の約1%という少数であるということが理由であろう。

・富山県内のNPO法人の財務

(1)当期収入額 活動をしていない日豪友好協会は収入ゼロとなっている。もっとも収入額が大きかったのは、氷見市のヒューマックスであり、1億2千万円強である。1000万円を超える法人が7法人あるが、すべて福祉関連の法人である。


(2)会費 会費収入は、NPO法人の自立性維持のための重要な要素でもある。会費額が不明確な法人が4法人あった。また、収入額に占める会費の割合がもっとも高いのが富山県断酒連合会であり、90%強である。

(3)寄付金 寄付金も会費同様、自立性指標であるが、会費との相違点は、会費が内部からの共感度であるのに対し、寄付金は外部からの共感度を測る指標であるということである。また、寄付金は一過性の要素が大きいことから、自立性という意味では継続的な裏付けがあるかどうか注意する必要がある。寄付額が不明確な法人が4法人あった。ゼロの法人が2法人あった。また、収入額に占める寄付金の割合がもっとも高いのがくろべ工房であり、60%強である。

(4)効率性 効率性とは、当期正味財産増加額/当期収入額(%)である。効率性のもっとも高いのが、北陸青少年自立援助センターの160%強であり、もっとも低いのが、自立生活支援センターとの▲60%強である。北陸青少年自立援助センターについては、車両の購入により400万円強の固定資産の増加が記載されているが、購入の裏付けとなる収入が記載されていない。記載の全体像から読み取れば、借入金の記載ミスのようにも見受けられ、もしそうだとすれば、正確な情報提供が求められる。

(5)安全性 安全性とは、正味財産/負債+正味財産(%)である。安全性が最高の100%、つまり負債が全くない法人が8法人ある反面、NPO法人の法人格維持のためのレッドカードともいうべき、正味財産がマイナスの法人が4法人もある。

(6)流動性 流動性とは、流動資産/流動負債(倍)である。流動性については、どの法人も高いレベルを維持している。

(7)財産目録 日本公認会計士協会近畿会の結果により危惧された、貸借対照表の正味財産と財産目録の正味財産との相違は、不明確な2法人はあったが見られなかった。

(8)原価償却の対応 減価償却の対象のない法人が10法人あった。原価償却をしていると見られる法人が8法人あった。しかし、財産目録などから減価償却対象の資産があるにもかかわらず、その対応をしていないと思われる法人が4法人あった。

効率性 当期正味財産増加額/当期収入額(%)
安全性 正味財産/負債+正味財産(%)
流動性 流動資産/流動負債(倍)

富山県内のNPO法人の財務処理については、まだまだ未熟なところが散見された。収入額の少ない法人や専任者がいない法人にとっては、財務処理は多くの困難があると思われるが、財務内容はNPOの透明性の上で最も大事な部分でもある。法人格を持つという責任からももっと正確に実施してほしい。

§おわりに

公益法人制度改革論議がなされているが、立場の違いで意見のかみ合わない部分も多いものの、改革論議で重要な共通点となってきているのが「情報公開の徹底」である。NPO法人が短期的な公益法人制度改革の対象に含まれるかどうかが議論されているが、長期的には、既存の公益法人もNPO法人も情報公開の徹底を通して、行政がその法人の社会的意義を判断するのではなく、市民や社会全体が判断していくというフレームへの改革が重要であろう。今回私が分析したようなことを、富山県という行政主体・所管主体が、行政の立場から分析したものはこれまでない。所管する富山県が評価しないのはむしろ健全な社会であると考えるが、裏返せば、評価を任された市民の責任は重く、市民の力量が問われているともいえる。
毎年提出が義務付けられている事業報告書、財産目録、貸借対照表、収支計算書などは、法改正により国レベルではインターネットなどによる情報公開が行われることになったが、県レベルでは法律上未公開である。今回、私が個人的に県の情報公開条例により1枚10円のコピー代を支払い387枚の資料を分析したわけであるが、3870円という費用は市民社会の健全性、NPO制度が健全に育つための費用でもあると思う。
今回の評価が富山県内では市民がNPO法人を評価する最初のケースであろうし、全国的にも事例が多くはないと自負しているが、今後もNPO法の理念の一翼を担うべく、毎年評価リサーチしていきたいと考えている。ご協力を賜れば幸甚です。

※1 内閣府、http://www5.cao.go.jp/seikatsu/npo/data/pref.html (2003.7)
※2 富山県、http://www.pref.toyama.jp/sections/1712/shinsei.html (2003.7)

評価データ表


【プロフィール】
谷口新一(たにぐちしんいち)
1965年富山県生まれ。
1987年東京大学経済学部卒業。
NPP(Non-profit person)として、住みたい富山研究所を個人で運営。
公共施設のC/B分析など、市民起点の自治体経営評価や地域経営評価に取り組む。
http://www.exe.ne.jp/~npp/

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